広島県立呉三津田高等学校 櫻 佑介 先生
学年 | 高校1年高校2年高校3年 |
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教科 | 英語数学国語理科地歴公民保体家庭情報 |
科目 | 保健体育 |
単元 | 球技「ゴール型 サッカー」 |
学校の設備について
広島県の研究指定校として,平成29(2017)年度よりICTを活用した授業を展開している。
本校には,iPad(12インチ)が全部で50台配備されており,それらを教員間で調整しながら共有している。Wi-Fiが一部の校舎のみ使える。
主に使用した機材など
- iPad 6 台
- プロジェクター
- 移動式スクリーン
- AppleTV
- Wi-Fiルータ
- その他,サッカーで使用するゼッケンなど
LIVE中継について
校舎の3階からサッカーの試合を,iPadで撮影する。グランドにテントを張り,テント下にて,AppleTVを経由した映像をプロジェクタでスクリーンに投影する。
実践報告のねらい
サッカーなどのスポーツを見るとき,テレビなどで上からの中継映像を見慣れている。自分たちの動きが,普段見慣れている映像と比べてどのように違うのか,横から見ている状況ではわからない。しかし,俯瞰で見られるならばわかるかもしれないと考えた。初めはドローンで中継することも検討したが,ドローンは安全面での不安などもあり,限られた機材を利用して実行する方法を検討した。
LIVE中継については,YouTubeを利用することも考えたが,Wi-Fiの状況によって映像が途切れるなど不安定であった。また,あまり遠い位置からはAppleTVに接続できなかったため,今回は,校舎の3階から撮影を行った。
単元について
単元観
「ゴール型」とは,ドリブルやパスなどのボール操作で相手コートに侵入し,シュートして一定時間内に相手チームにより多くの得点を競い合うゲームである。高等学校では,「状況に応じたボール操作と空間を埋めるなどの動きによって空間への侵入などから攻防する」ことが求められる。また,集団で練習・試合などの活動の中で,フェアなプレイを大切にすることや仲間を尊重し,合意形成に貢献すること,健康や安全を確保することが大切である。さらに,チームや自己の課題を発見し,合理的,計画的な解決に向けて工夫することや自己やチームの考えたことを他者に伝える活動を通して,「集う楽しさ」や「仲間と目標を一緒に達成する喜び」を味わうことにより,運動を豊かに継続する資質・能力を育成することができる。
生徒観
本クラスの生徒は,事前アンケートの結果から,運動部所属者は70%,体育の授業以外で1週間の運動日数が5日以上は65%,体力テストの結果がB判定以上は62%以上,サッカーが楽しいと答える生徒は63%という結果になった。サッカーの知識・技能については,運動部所属者は0人,経験者1人,サッカーが得意と答えた生徒は2人,サッカーのルールについて理解があると答える生徒は56%という結果になった。生涯スポーツ「する・みる・支える・知る」の観点からは,自分が将来関わりたいと考えるのは,「する18%」,「みる63%」,「支える12%」,「知る6%」という結果になった。この結果から,日ごろから運動に親しむ習慣やサッカーに対しては興味・関心はあるが,技術的には自信がない生徒が多い傾向にあると考えられる。運動・スポーツへの関わり方については,運動部に所属している生徒が多いにもかかわらず,運動・スポーツを継続して行うことよりも,「娯楽」としてテレビやインターネット等で楽しむものと考えている生徒が多い傾向にあると考えられる。
したがって,単元全体を通して,生涯スポーツの「する」「みる」「支える」「知る」に着目し,相互に関連し合う学習を行うことで,運動・スポーツ運動への多様な関わり方を実感し,スポーツに親しみ・喜びを感じることができると考える。
指導観
指導の内容として,単元を通して球技を生涯にわたって楽しむための自己に適した関わり方を疑似体験させ,集団的技能(主に仲間と連携した動き)に焦点をあてながら,「体育・スポーツ」に関わる思考力を育成する学習活動をしていきたい。そのために,生涯スポーツ「する・みる・支える・知る」の観点を単元全体の中で生徒が実感できるような役割に取り組ませたり,与えられた技能や戦術を行うだけではなく,生徒たちにチームや自己の課題を分析・修正・発展させたりするなどの協働的な活動を大切にしたい。また,生徒の関心・意欲や生徒同士の意見交換が向上する課題や教材を設定することで,生徒の思考力を高める取り組みを行っていきたい。
具体的な方法として,タブレットを用いて,上級者の模範動画を視聴することや自己の動きを撮影・視聴・分析するなど客観的に自己の技能を映像としてチェックさせる方法を行う。その際,他人の動きと自分の動きを比較・検証させながら分析活動を実施する。
また,話し合い活動では,意見を付箋でまとめさせたり,ルーブリックで評価し合ったりすることで,スムーズな学習活動につなげていきたい。さらに,基礎技能を時間や回数で競わせるドリルゲームや人数やコートの広さ・ルール設定等を工夫したタスク・ゲームを取り入れ,学んだ技能がゲームの中で発揮・向上させるためのしかけを取り入れていきたい。競技が得意不得意にかかわらず,練習やゲーム中で自分ができる役割を明確にさせ,実際の練習・ゲームで成功体験を積ませることにより,生涯にわたって球技の関わり方やチームスポーツの楽しさを発見させたい。さらに,学習クラウドサービス「Classi」に事前に模範行動や練習方法を載せ,反転学習を行わせることにより,学習意欲を高め,主体的な学びへと繋げていきたい。
評価については,本校体育科の取り組みとして,学習成果の一環として,技能テストやルーブリックによるゲーム評価等のパフォーマンス評価を行う。また,自らの学びを振り返り,教師が評価を書き加え,蓄積していく中で,メタ認知能力を高めることを目的として,授業毎にポートフォリオ評価を用いている。
今回の授業においても,授業後にポートフォリオを提出させる。
単元の目標
- 技術などの名称や行い方や体力の高め方,課題解決方法,試合の仕方などを理解するとともに,ボール操作と空間を埋めるなどの動きによって,空間への侵入などから攻防をすることができるようになる。
【知識及び技能】=基礎力 - 生涯にわたる運動を豊かに継続するためのチームや自己の課題を発見し,合理的,計画的な解決に向けて取り組み方を工夫するとともに,自己やチームの考えたことを他者に伝えることができるようにする。
【思考力・判断力・表現力】=思考力 - サッカーの学習に主体的に取り組むとともに,フェアプレイを大切にすることや合意形成に貢献することができるようになる。また,一人一人の違いに応じたプレイなどを大切にすることや健康・安全を確保しながら互いに助け高め合う活動をすることができるようにする。
【学びに向かう力,人間性等】=実践力
指導計画(全20時間)
学習の進め方を知る(1時間目) |
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基本技能の確認・個人目標の設定(2~4時間目) |
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学習成果の確認(5,6時間目) |
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チームメンバーの知識・能力を高めるための練習・チーム目標の設定(7~9時間目) |
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学習成果の評価・改善(10,11時間目) |
本時
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チームの能力に応じた作戦を考える(12~15時間目) 個人・チーム目標の再設定 試合運営法の学習 |
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相手チームを踏まえた作戦を考える(16~19時間目) |
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学習成果の確認(20時間目) |
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本時について(10時間目)
目標
チームや個人の課題を発見・分析し,解決策を協働して考え,仲間と分かりやすく伝え合う。
評価基準(ルーブリック)
ICT機器を活用し,客観的な視点でチームや個人の試合中の動き方を発見・改善点を分析,解決方法を説明している。
考え・基礎知識 (Ideas) |
つながり (Connections) |
応用・ひろがり (Extensions) |
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基礎力 | 【言語スキル】 自分の考えを簡潔に,わかりやすく相手に伝える力 |
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他者の考え・アドバイスを正確に理解できる。 | 技能や戦術等の説明を行う際に,根拠や具体性を明確にして,自己の意見を述べることができる。 | 他者と自分の考えを比較・評価し,自分の考えを相対化することができる。 | |
【知識及び技能】 状況に応じたボール操作及び空間を埋める・開ける動きを発揮する力 |
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状況に応じたボール操作や空間を埋める・開ける動きの方法が理解できる。 | 状況に応じたボール操作や空間を埋める・開ける動きを意識的に行うことができる。 | 状況に応じたボール操作や空間を埋める・開ける動きを習慣的に行うことができる。 | |
思考力 | 【論理的思考力】 ゲームにおける技能や戦術を分析する力 |
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ゲームでの攻撃・攻防の基本的な概念について理解できる。 | 自己の課題に適した技能の仕方・戦術を選択することができる。 | 自己の課題を解決する構想を立て,実践し,評価・改善できる。 | |
【批判的思考力】 ゲームにおける技能・戦術の有効性を検証する力 |
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ゲームでの効果的な技能・戦術について理解できる。 | ゲームを分析・評価し,自己の課題やその解決法を発見できる。 | 構想した自己の課題解決法の有効性について検証することができる。 | |
【メタ認知力】 自己の能力や役割を認識し,集団の中で自己の力を応用する力 |
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自己の思考過程や活動記録を記録することができる。 | 自己の思考過程や活動記録などの記録をを通して振り返り,練習やゲームでの自己の役割を認識することができる。 | 自己の思考過程や活動過程を評価,自己の役割を明確にし,今後の活動を修正することができる。 | |
実践力 | 【人間関係形成能力】 お互いに助け合い,高め合える関係を築ける力 |
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互いの考えを安心して伝え合うことができる。 | 互いの考えを伝え合い,相互に評価・改善することができる。 | 互いの考えを伝え合い,自らの考えと比較しながら合意形成を行うことができる。 | |
C 努力を要する |
B おおむね満足 |
A 十分に満足 |
本時の展開
学習活動 | 指導上の留意点 | |
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導入 10分 |
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体育委員を中心に,集団として規律を保ちながら,心と体を準備させる。 |
展開 35分 |
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試合中のチームや個人の課題を発見・分析して,発見した課題の解決方法を見つけよう! | ||
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各チームで2,3分程度,振り返りを行わせ,本時のチームの課題を共有させる。攻撃・攻防の役割についても考えらせる。 | |
①3チームで総当たりする。(7分×3試合) |
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課題発見・分析ゲームの説明 課題発見ゲーム (2チームが試合,1チームが運営) |
運営について,撮影分析係の役割を十分に理解させる。その他の係は試合の分析を行わせる。 | |
「みる」「知る」 (他チームの試合を分析。試合を「みる」ことで分析方法を「知る」) 「する」 (自己で判断または他社からの指示で判断し,試合中に動きを修正) 「みる」「知る」「支える」 (試合後,チームミーティングで,試合映像を分析・考察・話し合い) |
分析のポイントとして,ボールを扱う体の向きや攻撃・防御の際の隊形のバランス,スペースの活用について着目させ,試合の分析法を理解させる。 今回の試合映像を以前の動きと比較・検証させたり,ルーブリックを使って技能の解決点・問題点を見つけさせる。 |
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チームや個人の課題発見・解決方法を話し合う | 発見した課題や解決方法をワークシートに具体的に記入させる。 | |
まとめ 5分 |
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ワークシートに記入させる。 |
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各チームの発表。 |
配付資料
運動観察学習シート(サンプルはこちら)
課題発見・分析シート(サンプルはこちら)
今後の目標
今回の単元のテーマとして,ICT機器を活用し,生徒の思考力を高め,生涯スポーツに関わる資質・能力を育成することをねらいとした授業づくりを行った。生涯スポーツに関わる資質・能力を育む授業とは,生徒が主体的に運動に取り組み,「できる喜び」を味わうことや仲間と協働しながら考え,「わかる楽しさ」を実感できる授業である。今回の授業では,各個人の技能に応じた個別練習を行ったり,チームの中の役割に継続して取り組ませたり,相互に評価し合う活動を行った。さらに,生涯スポーツの4観点「する」「みる」「支える」「知る」を関連させた授業を行い,運動・スポーツに関わる見方・考え方を発揮,より深める工夫もした。
今回の授業では,真上からみたゲーム映像と横で行われているゲームを同時に観察・分析することで,俯瞰しながら実際の状況を確認することができ,生徒の課題発見・解決への手立てができた。また,サッカー専門教員が生徒と一緒にゲームを見ながら解説することにより,ゲームへの理解がより進んだように感じた。しかし,課題発見・分析シートが生徒にとって複雑すぎたため,もう少し簡略化し,生徒に自由に記述させる形式の方が良かったと感じた。授業全体で運動量は確保できたが,生徒に思考させる時間が少し短かったため,思考時間と運動時間のバランスを今後も検討・改善していきたい。
今後は,引き続きICT機器を活用し,運動・スポーツに関わる見方・考え方を発揮できる授業づくりをするとともに,思考力と運動技能(運動能力)を比例して向上できる授業づくりを工夫していきたい。