執筆:天野由貴 監修:奥村晴彦
はじめに
この連載では,世の中に出回っている変なグラフを例に,どこが悪いかを解き明かしていきます。みなさんも変なグラフにだまされないよう,イトウさんとにゃんこさんと一緒に学びましょう。
人物紹介
奥村先生
言わずとしれた,すんごい先生。統計学,物理学,情報学に精通しており,LaTeXやRの本も執筆されている。にゃんこさんとイトウさんをやさしく指導してくれます。
にゃんこさん
わかりにくさを嫌う猫。グラフはわかりやすくしてほしいと常日頃思っている。
イトウさん
本連載では生徒役。すべてのことをわりとあっさり受け止めるタイプ。
変なグラフってどんなもの?
見て下さい!懲戒処分は若者にものすごく多いのです!!
やれやれ・・・また,いかさまグラフですか。
ほんと嫌になってしまいますね。
え?懲戒処分は10~20代が他の年代より多いんですよね?だってテレビでそう言ってるじゃないですか。
いやいや,よく見たらこのグラフおかしいんですよ〜。
???・・・これは,変なグラフなんですか?こういうのはたくさんあるんですか?
わりといっぱいありますよ〜。
テレビだけじゃなくて,広告や新聞,雑誌とかでもあるんですよね。
グラフってそもそもデータをわかりやすく正しく伝えるためのものではないんですか?
そうですよね。でも世の中には,誇張したりごまかしたりしてるグラフがたくさんあります。
では。どんな風に変なのか,見ていきましょう。
グラフとは言えないグラフ
歪んだグラフ
出典:フジテレビスーパーニュース(2012年1月27日放送)
http://blog.goo.ne.jp/raymiyatake/e/622bd31c6f0f352dc0520dc80623bd04
別に変じゃないですよ?10〜20代がすっごい多いんですよね?
いやいやいや・・・よく見てください。30代と40代は同じ78人なのに,扇形の大きさがこんなに違うのはおかしいと思いませんか?
あ,ホントだ。
これはもう『グラフ』とは言えないですね。中心もずれてますし。
正しく描くとこうなります。
ほんとは,たいして差がないんですね・・・。
円グラフだと,わかりにくいのかと思います。
そうなんです。円グラフは,全体の中での割合はわかりやすいのですが,年代による違いはむしろ棒グラフにするほうがわかりやすいですね。次のようにすれば,若い年代が多くて,中間で少し減って,50代でまた増えていることが,わかりやすくなります。
ところで,このテレビ局が見せたかったのは,そもそも年代別の人数だったのでしょうか。おそらくそうではなく,年代別の懲戒率(例えば1000人につき何人が懲戒を受けたか)だったようにも思えます。
70%+60%+63%=100%?
出典:A Field Guide to Lies and Statistics: A Neuroscientist on How to Make Sense of a Complex World (Daniel Levitin著)
これはどこがおかしいか,わかりますか?
うーん,今度は円の中心もちゃんとしてますし,扇形の大きさも妥当のような・・・?
足しても100%にならない!!! えーっと193%になりますね。
円グラフは,全部のセグメント(扇形)のパーセンテージが,足して100にならないとおかしいですね。
そうだったのか・・・。
これもグラフとは言えない・・・。
複数回答可のアンケート結果なんかも,足して100%になりませんので,円グラフにするとまずいですね。人数で割るかわりに総回答数で割ると,足して100%にはなりますが・・・。例えば次のグラフはどうでしょうか。
総回答数=総人数?
出典:平成29年度試行調査 国語 第1問
https://www.dnc.ac.jp/daigakunyugakukibousyagakuryokuhyoka_test/pre-test_h29_01.html
補足:「今年度4月末の生徒総数は477人」という記述が問題文中にある。
これは2017年11月に実施された大学入学共通テストの導入に向けた試行調査の国語で出題された円グラフです。
すごくまともなグラフに見えますけど・・・
複数回答可のアンケートというところが問題ですね。1人が,複数の選択肢を選べるし,何個ずつ選んでいるかもわかりません。
そっか,答えた人は522人じゃないってことですね。
そう,522は総回答数であって生徒総数ではない。円グラフは割合を表すものなので,何に対する割合なのか,ということを意識しながら描かないといけません。
今は総回答数に対する割合になっているんですよね。しかし問題文によれば総生徒数は477人なので,「部活動の充実」を挙げた生徒の274票は,全体の57.4%にならないといけないんです。
なるほどー。
これも正しい割合を棒グラフにするほうがよいですね。
あー,このほうが断然わかりやすいです!どの項目にどれくらい賛成が集まったか一目瞭然です。
コラム 円グラフはグラフ内に項目を書こう!
青原高校の円グラフでは,ドットやストライプが扇形の模様として描かれていました。そして「凡例」といって,グラフの外側に,その模様が何の項目かを説明するものが書いてありました。
円グラフでは,なるべく凡例を使わずに,グラフの中に「項目ラベル」と言って,項目の内容をそのまま書くのが望ましいです。そのほうが視線があちこちいかずに済みますし,グラフも扇形を区切る線だけで模様を描かなくていいのですっきりします。
さて,次は帯グラフのひどいのを紹介しますよ。
もはや挿し絵
出典:テレビ朝日 羽鳥慎一モーニングショー(2015年12月30日放送)
http://netgeek.biz/archives/62907
えー,こんなに凶って多いんですかー。ショックだなぁ。
・・・。
・・・。
あれ?ボク,変なこと言いました?
35の吉より,30の凶のほうが多く見えるの,変だと思いません?
あ・・・
これはきっとネタで作ったんでしょうね。
これもグラフじゃないですね。印象操作目的のサギ挿し絵ですね!
今回は,明らかにおかしいグラフを紹介しました。みなさんはイトウさんのように騙されていませんか?
次回は,3Dグラフについてのお話です。
著者プロフィール
天野 由貴(アマノ ユキ)
大学職員。インストラクショナル・デザインの研究者。「情報デザインを意識したスライド作成入門」等の教材を作成・公開。ねこが大好き。 https://home.riise.hiroshima-u.ac.jp/~ten/
奥村 晴彦(オクムラ ハルヒコ)
三重大学特任教授。統計学,情報科学,情報教育の研究者。 第一学習社の「情報」教科書の著者の一人。 https://oku.edu.mie-u.ac.jp/~okumura/