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パワーポイントによるプレゼンテーション型授業~半年分の授業時間を短縮~

岡山県みまさか高等学校 森 あたる 先生

学年 高校1年高校2年高校3年
教科 英語数学国語理科地歴公民保体家庭情報
科目 現代社会
教科書 現社321 高等学校 改訂版 新現代社会
教材 『実践!ノート型問題集 ステップアップ現代社会』
『発展問題集』ほか

 

使用したもの

  • プロジェクタ,スクリーン,パソコン
  • PowerPointで作成した提示用スライド
  • スライドに対応した授業シート(配布物)

目的・目標

  1. すべての授業をスライドを使用して展開する。
  2. 文字のみでなく,画像・動画・アニメーションにより,生徒の理解を促進させる。
  3. 2により,現代社会の学習への興味・関心をより一層高め,教科横断型授業を展開し,知識の連結を図る。

実践内容

すべての単元(第一学習社教科書・資料集など活用)についてパワーポイントで掲示用スライドをつくる。

  エクセル特進・特別進学コース 進学に利用しないコース
1年目 全単元を学習 約55+5回
(教科書,資料集)
全単元を学習
興味・関心を重視
2年目 発展問題集 全29回
2年目10月 センター試験対策演習
(ステップアップ現代社会)
すべてプレゼンテーション型授業を実施

エクセル特進コース,特別進学コースについては,1年間に約55回の授業と休業期間中の補充授業(約5回)ですべての単元を終了する。2年目は『発展問題集(全29回)』を10月中旬に終了させ,その後はセンター試験対策演習を行う。

センター試験対策でも,教材をスライド化し(第一学習社『ステップアップ現代社会』),復習させ,解説を行う。生徒の理解しやすさに気を配りながらも,スピード感を緩めない。

進学に利用しないクラスについては,興味・関心を高め,教養として幅広い知識を学ぶ時間として,ゆっくりとした進度で楽しい授業を展開している。

また,すべての授業をビデオで撮影し,YouTubeを利用して限定して公開している。Classi上に,リンク用のページ(図1)を用意している。これにより,反転学習・復習や,欠席者への対応を行っている。

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図1 Classiにてホームページを公開

教材制作上の留意点

すべての教材は,50分の授業で終わることを基本に考えている。ただし,本校の場合は,コースによって進行スピードが変わる。授業動画を見ていただければご理解していただけると思うが,受験に対応した内容をベースにしながら,各コースによってスピード重視の受験対応型や,様々なエピソードを加えて生徒の興味・関心をひく内容や教科横断型の内容を展開できる教材にしている(図2)。言い換えれば,受験に必要なクラスでは不必要なスライドを省くことで,よりスピードを上げた授業展開を可能にしている。

(先生のご厚意により,第1回のみ,授業動画を公開しています。)

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図2 授業の様子

授業用シート(図3,図4)は,スライドから重要語句の部分を空欄にて作成している。これは,そのまま生徒のノート代わりになる。生徒にとっては,板書に費やす時間を減らせるだけでなく,スライドの中に教科書・資料集の図を入れているので,教科書や資料集をその都度開く時間も減らせる(ココが最大のポイント)。また,写真や動画を加えることで,グラフィカルな理解の方が得意な生徒に対応でき,多くの生徒の理解を深めることができるようにしている。ただし,1つのスライド教材を作り上げるには,平均して約3日取り組む必要がある。

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図3 授業用シート

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図4 センター試験対策演習の授業用シート

生徒の反応・学習効果

生徒からは,”わかりやすい”,”写真や動画があり,眠くならない”,”アニメーションや効果音があり,たのしい” などの好反応が得られた。また,”普通に授業を受ければ好成績がとれた”,”現代社会の先生を目指す”,”多くの時間を使って,授業準備してくれてありがとう” などの感謝の言葉を聞けると,かなりの時間を要する教材作りもやめられなくなってしまう。

現在の3年生の受験クラスが,パワーポイントによるプレゼンテーション型授業を展開してからの初めての持ち上がりクラスであるが,県内トップクラスの成績を取る生徒をはじめ,好成績を出す生徒が出ているなど,学習効果にもよい結果が見られている。

プレゼンテーション型の授業に切り替えるまでは,2年生から授業をスタートし,全範囲を終了するのに3年生の10月半ばまでかかっていたことを思うと,大幅なスピードアップと言える。これにより,残りの時間でセンター試験対策に打ち込めるようになった。そして何より,最大の効果は上記の通りスピードだけでなく,理解度が向上したことである。

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教授者の気づき

この授業形態では,授業前にリハーサルを行うことが容易である。これをチョークとジョークの黒板授業で行おうとするのは難しいと,多くの先生方にご理解いただけると思う。

また,授業を動画で記録することにも大きなメリットがある。

第1に,自分の説明の仕方で,“えー“などの不要な言葉が何回あったか,など 授業者自身が自分の授業を振り返り,客観的な視点から次の授業への修正を図ることができる。

第2に,生徒も授業を動画で撮られていると思うと,授業への緊張感が増し,集中した授業を展開できる。授業への集中が,苦手なクラスのほうが効果がある場合もある。

第3に,授業動画を(限定的な範囲であるが)公開ことによって,間違えがあってはいけないという思いから教材制作や授業での言葉遣いなどに至るまで注意力が高まっている。

要するに,授業を撮影することによって,教員は授業力を向上させ,教材を作成せざるを得なくなる。生徒は,授業での理解を深めつつ,授業への良い意味での緊張感を持つことができる,と考えている。

最後に

今回,ICT活用授業の1つのモデルを紹介させていただいたが,現在の授業形態に紆余曲折しながらたどり着くまで,様々なことを学び,授業方法や成績を向上させるにはどうすればいいのか悩み,試行錯誤しながら多くの時間を費やした。その間,先輩教員の方々からのご助言・ご協力をいただくことで,何とかスライド授業にたどり着いたと考えている。また,昨年度より教室にプロジェクタを設置していただき,スライドを活用した授業を実施することが大変スムーズ行えるよう配慮していただいた学校側の協力にも,大変感謝している。今後もプレゼンテーション型授業を継続的に発展させていくために努力し,多くの先生方にプレゼンテーション型授業の長所を理解していただき,この授業形態が広がっていくためにも努力していきたいと考えている。