栄北高等学校 三浦崇史 先生
学年 | 高校1年高校2年高校3年 |
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教科 | 英語数学国語理科地歴公民保体家庭情報 |
科目 | 生物基礎 |
実践報告のねらいとポイント
教師にとって板書計画は重要で,教師の個性やその授業の分かりやすさを大きく左右するものである。そのため,試行錯誤しながら時間をかけて準備するだろう。そうして十分に熟考を重ねたものを生徒に写させる。しかし,ここまでの過程で誰が一番勉強したのかというと,教師である。それを逆手にとって,これまで教師が勉強した過程を生徒自ら考えさせる発想に至った。
生徒は授業という限られた時間の中で必要な情報を選択してインプットし,自分のプリントにアウトプットしていくことで,授業の目的に対して「何を学ばなければいけないのか」,「何を考えなければいけないのか」など,生徒のコンピテンシー(資質・能力)を育成することをねらいとしている。
主に活用した機器・教材・コンテンツなど
- 教科書
- 資料集
- 授業用プリント(下記図1~6)
- 電子辞書など
授業について
授業計画
単元計画 | 第4章 植生の多様性と分布(全6時間) |
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第1時 | ・植生は,大きく森林・草原・荒原に分けられることを学習する。 ・森林は,植物の高さによって階層構造が認められることを学習する |
第2時 | ・光の強さと光合成速度の関係を学習する。 ・陽生植物と陰生植物の特徴を学習する。 ・環境と生活形の関係や,ラウンケルの生活形を学習する。 |
第3時 | ・乾性遷移のモデルについて学習する。 ・植生の遷移と環境形成作用の関係を学習する。 |
第4時 | ・ギャップ更新の過程について学習する。 ・二次遷移と一次遷移の違いについて学習する。 ・バイオームの概念と成り立ちについて学習する。 |
第5時 (本時) |
・世界各地の森林,草原,荒原の特徴を学習する。 ・日本におけるバイオームの水平分布と垂直分布の特徴を学習する。 |
第6時 | ・暖かさの指数とバイオームの関係を学習する。 ・バイオームと動物の関係を学習する。 |
本時のねらい
本時では,世界や日本におけるバイオームの分布を学習していくが,図示することや生徒が知らない単語(特に植物の種名)が多く,板書に時間を割いていると,どうしても授業のテンポが悪くなってしまう。これは生物の授業ではどの単元でも常に抱える問題であり,この問題を解決するために解説に割く時間や板書の量を極力少なくする。
敢えて細かく伝えず,要点を絞って説明することで,単元の理解に必要な知識を生徒自ら掴ませる。生徒に考えさせる時間を与えることで,教師による知識の伝達と,生徒が思考・判断・表現をする場を両立させる。
学習の流れ
説明(10分)
主な学習内容
- 前時の学習内容の振り返り
バイオームの成立条件の確認
(前時で生徒から回収したプリントの裏面には,前時の授業内容のまとめを印刷して返却している) - 本時の目的の確認
授業用プリント(表面)に記載している2点に注目させる - 本時の要点の説明
1,各バイオームの特徴を教科書で確認させる。
2,地理的条件による気温の変化を教科書で確認させる。
図1 授業用プリント(表面) |
図2 授業用プリント(裏面・回収後に印刷) |
指導のポイント
- 前時と本時の繋がる知識を振り返りつつ本時の目的を強調し,意識させる。目的を意識させることで,この後に生徒が行う内容のまとめがスムーズに行える。
- 要点を絞って説明。板書の時間を省くために教科書で確認させながら話す。
- 前時の学習内容の振り返りから本時の要点の説明が10分を超えないように注意。
内容のまとめ(30分)
主な学習内容
- 本時のプリントから目的を達成するために必要な用語を確認する。
- 整理ノートのスペースに自分で考えながらノートを作成していく。
- 分からないことや疑問点は,資料集や電子辞書で調べたり,友達や教師に聞いたりすることで解決する。
図3 生徒がまとめたものA |
図4 生徒がまとめたものB |
図5 生徒がまとめたものC |
図6 生徒がまとめたものD |
指導のポイント
- ノート作成の前に必ず再度目的を確認させ,本時の教科書の範囲に目を通すようにさせる(教師による要点の説明をもう一度確認することで,流れを掴む。また,自分で新しい知識や用語を獲得して要点と関連付ける機会を設ける)。
簡易テスト(5分)
主な学習内容
- 簡易な問題を5問出題。(上記「図3~6」の右下部分)
- 答え合わせを通じて知識の確認を行う。
指導のポイント
- 問題に対して正解することが望ましいが,あくまでも本時の目的や知識を確認することに重きを置く。
振り返り(5分)
主な学習内容
- 本時の取り組みを振り返り,プリントの反省欄にコメントを記入。
- プリントがまとめ終わったら提出。
指導のポイント
- 本時で何が分かっていて,何が分かっていないのかを明確にさせる。本時の内容を復習する際に,自分に情報が引き継ぐかたちになるよう指示。
結果と反応
生徒の目的達成度に関しては,本時の目的を意識して自身で教科書などを読み込んでプリントにまとめているため,概ね良好である。また,まとめたプリントの見返しや友人同士で問題を出し合う姿も見られる。その様な姿勢であるため,授業終盤に毎回行う簡易テストで多くの生徒が満点に近い点数を取っている。創意工夫したことが数字で分かるため,自信になっているようである。また,点数が振るわない生徒でも自身の取り組みに対する反省点がすぐに分かるため,効率の良い復習に繋がっている。その積み重ねからか,定期試験では毎回,大学入試に類似する考察力を求める問題を出題しているが,生徒の平均点が下がることはなく,従来の授業形態と比較しても懸念することはないようである。
本稿に記した授業形態に慣れた生徒は,自分のペースで情報がインプットでき,分からないことは互いに話し合うなどして解決できるため,従来受けてきた授業形態よりも手応えを感じているようである。また,振り返りの欄には生徒からは素朴な疑問だけでなく,生徒自身の知っている知識や経験と絡め,思考を巡らせた疑問が書かれることがある。従来のやり方以上に生徒が考えていることを知る機会が増え,プリントが生徒と教師を繋ぐコミュニケーションツールになっている。
従来の授業に慣れている生徒にとっては取り組みにくいようで,説明の短さや板書の少なさに不満を漏らす生徒もいる。
今後の課題
この授業形態に慣れない生徒の対策としては,まとめの時間に机間巡視して声をかけ,全く手がつかない状態にならないようにしている。生徒に目的を再度確認させ,目的に対して何を考えれば良いか,何を吸収するべきかなど質問してきっかけをつくり,それらをノートにまとめることからはじめている。さらに,生徒が欲している板書に関しては授業内で省略しているだけであり,教師が伝えたいことは毎時回収しているプリントの裏面に印刷して返却している。
執筆している2019年4月現在の授業においての所感では,中学生時代に主体的になるように教育を受けている生徒が多いのか分からないが,筆者が授業を行ってきた学年の中で一番取り組みが円滑でありノートの質も最初から高い。今後は,授業内でより一層生徒が主体的になるよう求めても対応できる可能性が大いにある。
センター試験に代わって行われる大学入学共通テストの試行調査を見ても,対話形式の問題が入ってきており,その中には生徒同士の何気ない会話や個人の思考から情報を得て正誤を考える問題が見受けられる。普段の活動がそのまま試験に出ることを意識させながら授業展開していくことで,コンピテンシーの育成と大学入試対策の両立を図りたい。