埼玉県立松山高等学校 浅見 和寿 先生
学年 | 高校1年高校2年高校3年 |
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教科 | 英語数学国語理科地歴公民保体家庭情報 |
科目 | 古典 |
単元 | 漢詩「望廬山瀑布」 |
実践報告のねらい
漢詩を鑑賞し、自分が感じたことをまとめる。その上で「他者の意見を聞き、自分の考えをまとめ、またそれを他者に伝える」(知識構成型ジグソー法)。この一連の流れを国語の授業中に強化することが今回の実践のねらいである。授業時間内に全てを行うことが最善だと考え、そのために、「Google Classroom」を活用した。タイムラグをできるだけ無くし、授業内で発表できるところがポイントである。
【参考】
主に使用した機器・アプリケーション
【機器】
パソコン プロジェクタ スクリーン マイク レーザーポインター スマートフォン ポケットWi-Fi
【アプリケーション】
「Google Classroom」 | |
Googleが無料で提供するクラウドサービスの一つ。Google Classroomでは、担任がクラスを作り生徒を招待する。クラス内でファイルを共有したり、カレンダーを共有したり、課題を作成して生徒に提出させるなどの指導に利用できる機能が用意されている。 |
【参考】qiita.comより「Google Classroomが一般公開されました」
「Office Lens」 | |
Microsoftが無料で提供しているアプリケーションで、スマートフォンなどのカメラ機能で撮影した写真を傾き・歪みの補正や、不要な部分のトリミングを自動で行ってPDFやWordファイルとして保存できる。画像内のテキストをOCR機能で読み取る機能も備えている。 |
授業について
一年次に、漢詩の修辞等は一通り勉強した。それ故、漢詩はその部分だけ理解すれば良いという考え方をもち、詩を鑑賞しようという点が乏しくなっていると感じている。今回の授業は「漢詩を素直に鑑賞する」という点に着目したい。
漢詩を味わうポイントとして,3つの観点に対応する資料を用意した。
- 漢詩を音で味わう。(中国語で漢詩のリズムや抑揚を味わう)
→エキスパート資料A(赤色シート) - 漢詩を目で味わう。(「廬山観瀑図」を見て漢詩の内容や表現を理解する)
→エキスパート資料B(緑色シート) - 漢詩を頭で味わう。(作者・作品、詩の表現について理解し詩を鑑賞する)
→エキスパート資料C(青色シート)
各資料には「マッピングシート」をつけており、自由に創造を膨らませて欲しい。資料は全て「Google Classroom」にアップロードしてある状況である。
上記の学習を自宅で行い(反転学習)、授業中には集団で行うことしかできないAL(アクティブ・ラーニング、以降AL)で理解を深めて欲しいと考えている。本時で学んで欲しいのは、同じ漢詩を勉強していても、鑑賞する方法によって感じ方が異なるということを学んだ上で、共有した情報をもとに、マッピングや文章等で表現して欲しい。
今回とりあげる作品は、難解な語句もあまり多くはないので、読解は容易である。その中でこの詩のどの点に特徴があるのか考えさせる。今回のように鑑賞の仕方を学ぶことで、今後の漢詩の学習につなげていきたい。
以上の目標を達成するために「Google Classroom」を使い実施した。
単元計画
時間 | 取り扱う内容・学習活動 | 到達して欲しい目安 |
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1 | 教室外(反転学習) ワークシートに取り組む 「Google Classroom」各資料(ICT) |
自分の担当した資料について「Google Classroom」の音源等の資料を参考にし、「マッピング」を作成しながら、自分の考えをまとめておく |
2 本時 |
教室内「望廬山瀑布」 (知識構成型ジグソー法) 「望廬山瀑布」の詩にはどのような特徴があるか。(ICT・AL) |
特徴はどういう所にあるのかを理解し、それが一つにまとまらなかったとしても、鑑賞の仕方が身につくことが望ましい。 |
3 | 教室内「望廬山瀑布」 漢詩の修辞をしっかりと理解する。(ICT) |
鑑賞した上で、文法事項を理解したい。 |
本時のねらい
- 漢詩のリズムを耳で味わう。
- リズム・区切れ・抑揚・強弱等(2字・2字・3字、前半後半の抑揚)
- 漢詩の情景を目で味わう。
- 滝の部分をダイナミックに描き、作者と滝の距離感も近い。
- 漢詩の作者や表現法を頭で味わう。
- 「三千尺」や「九天」のような表現から比喩等に気づく。
ICT機器を使った取り組み
エキスパート資料A「漢詩を耳で味わう」(中国語)
中国語で漢詩を聞き、漢詩本来のリズムや抑揚・区切れ等を学ぶ。今回の詩は七言絶句であるので、各句の意味のまとまりが2字・2字・3字で構成されているという所を聞き取る。また漢詩のリズムにおいても、一定のスピードで淡々と朗読しているわけではないので強弱等にも意識する。「Google Classroom」から音源を取り出し、スマートフォン等で聞く。
エキスパート資料B「漢詩を目で味わう」(「廬山観瀑図」)
漢詩を題材にした絵画や実際の写真を見ることで、そこから特徴を感じ取る。後世になって、この詩を題材にした「廬山観瀑図」が様々な人に描かれていた。その魅力を感じ取り学んで欲しい。滝の大きさや、李白の立ち位置・目線、またその勢い等。当時の李白が感じたであろう姿を想像できると良い。「Google Classroom」から絵画・写真を取り出し、スマートフォン等で鑑賞する。
エキスパート資料C「漢詩を頭で味わう」(作者・表現方法)
漢詩を作成した作者について知る。どのような人物で、どんな表現方法を好んでいたのか、李白の描きたかったものを想像し、鑑賞していきたい。
作者・作品についての情報は、「Google Classroom」から取り出し、スマートフォン等で確認する。
本時の展開と実践内容
時間目安 | 主な学習活動 | 指導のポイント |
---|---|---|
2分 | 3人1組のグループ×12、 4人1組のグループ×1で着席する。 |
*座席表を準備し、パワーポイントで表示する。また、配布資料を机毎に準備しておく。 |
7分 |
先週配布した資料を確認し課題に取り組む。 |
*赤・緑・青色に分かれた、各エキスパート資料を持参しているかどうか確認する。 *机間指導をし、質問に対して応対する。 |
3分 | 指定された席に移動 | *座席表を準備し、パワーポイントで表示する。 |
18分 |
お互いの資料で考えたことを話し合う。 |
*各資料で振り分けられたの生徒がグループに存在しているか確認する。資料の色を見ながら判断し、欠席者等の関係でグループにいない場合は対応する。 |
12分 |
全体への発表を行う。(情報を全体に共有する。) |
*発表中に周りのグループが騒がしくなった場合に、注意する。 |
8分 | 課題に取り組む(授業後) (授業前の授業後の変化を記入) |
*資料についてのみふれる。 |
結果と反応
授業前は、生徒は何を解答すれば良いのか迷っていたようである。つまり何を答えたら良いのかが漠然としていたからだ。しかし、ここが一つのポイントであり、特徴といえるものは何があるのかを貪欲に探し考えた生徒が多かった。授業前は想定していた解答も多かったが、授業後は私自身が情報として与えていなかった部分から情報を得て、そこから解答する者もいたことは、想定外の喜ばしいことであった。また、最後の発表の際には、その時間中に考えたことシートを「Office Lens」で読み取り、スクリーンに映すことで効果的に全員に情報が共有できていた。
各資料の読み込みについては、「Google Classroom」に用意しておいた資料にアクセスし、自宅学習で行ってくるというものであった。昨年から反転学習を行っていることもあり、その部分については生徒も良くついてきてくれていた。しかし、今回の課題について、何をどう答えたら良いのかも自分で考えていかなければならなかった所が難しかったようである。それに対して、立ち向かっていった者と考えるのを放棄してしまった者とに分かれてしまった。
授業前と授業後の生徒の変化
生徒 | 授業前の解答 | 授業後の解答 |
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1 | 李白の滝の雄大さ | 七言絶句で、二句・四句で韻を踏んでいる。また二句目と三句目で視点が変わる。日本語と中国語では、詩の発音が大きく異なる。奇想天外な着想・李白の体験が我々にも体験できる。 |
2 | 実際に存在する香炉峰の紫煙がかかる幻想的な姿や、それとは対に自分で想像している銀河のような滝が具体的に伝わってくる。 | 本文や作者の特徴だけでは掴めない、本文の中国語発音や絵画を通しての学習で、さらに情報が集まった。作者が香炉峰の煙や瀑布の流れに感動し、その気持ちを詩にしたというもの。 |
3 | 三千尺というのは千メートルであり、そのような存在しない滝を詩に書くのが李白の特徴の一つであると言える。 | 李白は、技術や科学が発達していないころに、色々なことを想像し興味を持っていたと考えられる。昔だから、想像力が豊かであるとか、ダイナミックすぎると、言われていたが、今につながることが多いので根拠を持ってダイナミックな表現を使っているのが特徴だと思った。 |
授業方法や課題設定について
今回の課題の設定については、限定しすぎることなく、先入観を持たせないことを目的とした。「教えない授業」を心がけたつもりである。そのため、何か特別に問をたてることはなく、与えられた資料から生徒自身が問を考え、課題について考えていくという流れである。マッピングを使って、各々がゴールにたどりつくよう設定したが、そこがゴールなのかどうか、生徒自身が迷ってしまったことも事実である。ゴールについて、各々のゴールを良しとする方向性を示してあげればよかったと感じている。一年次に学習した漢詩の修辞については、すぐに確認していたので、既有知識の見積もりはある程度想定したものであった。
ICT機器の利用について
プロジェクタを利用し、生徒が授業中に書いたマッピング資料を「Google Classroom」にアップロードさせ、発表させたが、その部分は良かったと感じている。自分たちの考えたことが、タイムラグ無しに共有できたからである。また、本授業のプリントや教材は全て「Google Classroom」に保存されているので、自分で好きな時にアクセスし、復習をすることができる。しかし、ここで使用したのは、生徒のスマートフォンであり、通信料の一部も生徒のものである。環境が整っていない所でのICTを利用した教育は、ハードの部分にも目を向けて考える必要がある。
今後の目標・理想
写真や画像だけだと上手くイメージができない有職故実などをVR(バーチャルリアリティー)を使用して理解させることができれば、生徒も楽しく学習できるのではないかと考えている。平安時代の町並みや服装等を再現させ、実際に自分がそこにいるかのような状況を作りあげたい。