執筆:天野由貴 監修:奥村晴彦
はじめに
この連載では,世の中に出回っている変なグラフを例に,どこが悪いかを解き明かしていきます。みなさんも変なグラフにだまされないよう,イトウさんとにゃんこさんと一緒に学びましょう。
人物紹介
奥村先生
言わずとしれた,すんごい先生。統計学,物理学,情報学に精通しており,LaTeXやRの本も執筆されている。にゃんこさんとイトウさんをやさしく指導してくれます。
にゃんこさん
わかりにくさを嫌う猫。グラフはわかりやすくしてほしいと常日頃思っている。
イトウさん
本連載では生徒役。すべてのことをわりとあっさり受け止めるタイプ。
前回までのあらすじ
前回は,中心が歪んだ円グラフなど,グラフとは言えないグラフを解説しました。
今回のテーマは3Dグラフです。
3Dグラフ?グラフがバァァァン!と飛び出すとか?
いや,それはそれでびっくりしますけど。
3Dグラフ
3Dグラフ,上から見るか?横から見るか?
出典:テレビ朝日ワイドスクランブル内コーナー「解体新SHOW」(2015年7月27日放送)
https://togetter.com/li/853061
3Dグラフって,こんなふうに立体的に描かれているグラフのことです。
あ,さいきん流行りのやつですね!よく見ます!
流行ってたのか・・・。
このグラフだと厚みのところが,数値が大きいんじゃないかと思ってしまいませんか?
思いますー!小型機めっちゃ多いんですよね!
実は,小型機が多いように見えますけど,数値はヘリの方が大きいんですよ。
えっ。
ヘリの数値,すごくちっちゃく書いてありますね・・・小型機が373件で,ヘリは425件ですよね。
この場合は,割合ではなく各項目の差なので,棒グラフが向いています。
ホントだー,突き抜けて多いのかと思ったけど,ちがうんですね。
このニュースは小型機の事故のニュースだったので,それを目立たせたかったんでしょうけど。
目立ってる小型機よりもヘリの方が多いし,大型機よりも滑空機の方が多いですね。
目立たせたい要素を,わざと厚みがある部分に配置して描いたんですね。
色も赤だからなんか目立ちます!
そうなんです!色もけっこう印象に影響を与えますよね。
小型機に注目させたい気持ちが,印象操作と言われても仕方のない結果に・・・。
3Dグラフは世の中から撲滅されるべきですね!!
誤解を与えるようなグラフは,グラフではない。
出典:統計リソースの現状と統計調査の質の確保について(総務省)
https://www5.cao.go.jp/keizai-shimon/kaigi/special/statistics/03/shiryo_01.pdf
今度は3D棒グラフですね。
こういうのもよく見かけますよ!
そうなんです。これは3Dだけでなく,棒の位置も0の基準線にひっついてなくて,より一層わかりにくいことに・・・。
たとえば,2008年の日本は。4,000を超えてるのか,超えてないのか?
2008年のアメリカも12,000を超えてるのか,超えてないのか?
えっ,ど,どうかなぁ・・・2008年の日本はちょっと超えてるみたいに見えますけど,アメリカはピッタリに見えます。
ちょっと,この2つのデータを抜き出して描いてみましょうか。
3Dだとこんな風になってますが,2Dの棒グラフで描くと・・・。
どっちもすっごい超えてるじゃないですか!
はい,ここで思い出してみましょう。グラフとは?
データをわかりやすく正しく伝えるもの!
これは全然正しく伝えられてないですね。
わかりやすくもないし!
3Dグラフってカッコいいと思ってましたけど,こんなことになっちゃうんですね・・・。
グラフはかっこよさじゃなくて,正確でわかりやすいことの方が重要です!やっぱり,3Dグラフは撲滅しないと!!
コラム 0の基準線
この章では,「0の基準線」という言葉が出てきました。棒グラフでは,下の図1のように0から始まるように描かないといけません。0の基準線から並べることで,正しく比較できるようにするためです。
図1
それを踏まえて,下の図2を見てみましょう。下の図2は上の図1と同じデータを棒グラフにしたものですが,下の図は0の基準線からはじまっていません。基準線が0ではなく、20からはじまっています。
図2
基準線を20からはじめたことで,2012年は2013年の2倍に見えます。しかし実際のデータは,2012年が「60」,2013年が「40」なので1.5倍なのです。
棒グラフは棒の面積でデータを比較しています。0の基準線がないと面積がおかしくなって,正しいグラフにならないのです。
すごーい予備校グラフ
出典:東進ハイスクールWebサイト
https://www.toshin.com/jisseki/
わわ!すごーい!!
うん,すごーい としか言いようのない・・・。
これはもうグラフとは言えないですね。絵です。目盛もありませんしね。
まあ,これも正しく描いてみましょうか。
すごーい感がなくなった・・・。
増減などの変化を分かりやすく表現したいなら,こういう方法もあります。折れ線グラフだと,0はじまりでなくてもいいのです。こういう時系列の変化は,折れ線グラフのほうがいいですね。
折れ線になると変化がわかりやすいです!
さっきみたいなすごーい予備校グラフ,よく見ますけど,予備校の方はなんで折れ線グラフを使わないんでしょうね。
折れ線グラフだとインパクトある感じにならないからですかねぇ。3D棒グラフなら,さきほどのもののように,手前を大きく見せることですごく増えているような印象を与えることが可能ですし。
インパクトが欲しいなら,グラフは使わないで欲しいですね。
皆さんがいかさまグラフを見抜けるようになると,先程のようなすごーいグラフも広告効果がなくなりますよね。そうなることを期待しましょう。
まとめ
今回は,3Dグラフが良くないってことがよくわかりましたー!
誤解を与えやすいので,データを正しく伝えてるとは言えないですからね。
3Dグラフは撲滅!撲滅!!
3Dグラフは撲滅!撲滅!!
著者プロフィール
天野 由貴(アマノ ユキ)
大学職員。インストラクショナル・デザインの研究者。「情報デザインを意識したスライド作成入門」等の教材を作成・公開。ねこが大好き。 https://home.riise.hiroshima-u.ac.jp/~ten/
奥村 晴彦(オクムラ ハルヒコ)
三重大学特任教授。統計学,情報科学,情報教育の研究者。 第一学習社の「情報」教科書の著者の一人。 https://oku.edu.mie-u.ac.jp/~okumura/